テニスの全豪オープンで、大坂なおみ選手が優勝しました。全米オープンに続くグランドでの優勝、男女を通じて日本人初となる世界ランキング一位という歴史的な快挙を達成しました。
大坂選手の躍進はメンタルの成長がその一因です。実際に決勝でも何度か崩れそうになる場面がありました。以前であれば無理に力でねじ伏せようとして自滅したり、相手の粘りに根負けしていましたが、今回は「忍耐の精神」で冷静にプレーを立て直すことが出来るようになっていました。
メンタルトレーニングのコラムを連載中の週刊ゴルフダイジェスト、今週のテーマは「大坂なおみのメンタリティ」です。
今回は、大坂選手の癖に注目してみたいと思います。以前はミスが続くと下を向く癖がありましたが、今回はその数が減っていました。何が変わったのでしょうか。
人は内向きのエネルギー、外向きのエネルギーを持っています。外向きのエネルギーとは社交的であり、意見を言うのが好きなど心の矢印が外側に向いている状態を指します。一方で、内向きのエネルギーとは、1人で静かな時間を過ごしているときなど、心の矢印が自分の内側に向いている状態です。
人はどちらのエネルギーも持っています。ただ、外向きのエネルギー、内向きのエネルギーのどちらが強いかは人によって違いますし、お国柄によっても違います。
ちなみに、大坂選手は、人前で話すのが苦手なことをこれまで何度も公の席で語っています。海外のメディアも「ナオミはチャーミングで、礼儀正しく、少しばかりシャイ」であり、「歴代のチャンピオンの中でもっとも謙虚な勝者」と評しています。
大坂選手は、内向きのエネルギーが強いのだと思います。それは、内側に広がる心の世界をとても大事にしているということ。ただ、それを言葉で外に出すのは得意ではないのだと思います。大坂選手のプレーは、相手に勝つためのプレーというよりも、イマジネーションの表現という方が適切なような感じがします。
相手に負けたことが悔しいときは、外側へ矢印が向いている状態であり、納得できるプレーが出来なかったことが悔しいときは、内側への矢印が向いている状態といえます。
内向きの矢印を持つプレーヤーの特徴は、何か大きなストレスを感じたときに、内向きになりすぎるということです。大坂選手の場合、納得がいかないプレーに対してネガティブな感情が湧き出してきて、下を向くという行動につながるのです。
大坂選手の試合後の会見で印象的だったのは、第2セットを落とした直後に、「私は世界で1番強い人と戦っていると考えた」と対戦相手への敬意の念を思い起こし、気持ちを切り替えた点です。相手への敬意とは、外側に矢印が向いていた状態。苦しい時に内側に向きがちだったエネルギーを外側にエネルギーを向けることで、冷静さを取り戻したのです。第3セットでは、もう下を向くことはありませんでした。これは、サーシャ・バインコーチとのトレーニングの成果だと思います。
ゴルフでも、自分のプレーに夢中になりすぎる人がいます。周りが見えず、自分のことばかり考えているときは、内向きのエネルギーが強い状態で、独善的なプレーになります。苦しい時こそ、外向きの矢印を意識してみましょう。青い空、心地よい風、コースの美しい緑など五感を刺激してくれるものに心を向けるのです。
一方で、外向きのエネルギーが強い人は、相手との勝ち負けにこだわりすぎる傾向があります。もっと自分のプレーへのこだわりを持ってみましょう。自分のプレーにイマジネーションを持つことで、勝負をもっと楽しめるようになります。
今回、大坂選手は「インナーピース」という表現を口にしていました。直訳すれば「内側の平和」。禅的にいえば「平常心」でしょうか。心が穏やかなときにベストなプレーができるそうです。大事なのは、内側と外側とのバランス。
メンタルトレーニングでは、自分の矢印がどこに向いているか知ることからはじめましょう。どんな状態が心地よいか、そして苦しい時にその矢印はどのようになっているか。心の矢印のバランスをとって「インナーピース」にトライしてみてください。