メンタルトレーニングのコラムを連載中の週刊ゴルフダイジェスト、今週のテーマは「心の源泉」です。

ゴルファーの会話を聞いていると、ドライバーが得意、アプローチが苦手ということを話している姿をよく見かけます。「得意」「不得意」は過去の結果を評価することによって決められています。もちろん適切な評価であれば、一時的によい結果を生むことはあります。ただ、こうした評価は自分を固定概念で縛ってしまうことになり、力を発揮することを邪魔します。

「得意」「不得意」ではなく、もっと自由に力を出せる基準は何でしょうか?それは「好きを大事にする」ということです。「好き」に評価はありません。それは自分の中からあふれ出てくる感情です。

子供の頃に夢中になった昆虫図鑑や砂場遊び、大好きな映画や本、思い出す風景・・・ 「好き」とは、何でもよいのです。人は「好き」なことをしているときには、没頭できるのです。「好き」とはモチベーションの原石のようなもの。好きを磨いていくことが成長のためには大事な要素です。

プロゴルファーのKさんは、スコアが伸び切らないのが悩みでした。前半がよければ後半で伸び悩む、1日目がよければ2日目でスコアを落とす。どうしても突き抜けることができないのです。

Kさんの口癖は「今日はドライバーの調子が悪い」「このコースは苦手」「15番は鬼門」「途中から風が強くなって調子が狂った」など、どれも結果を出すための事柄ばかり。でも、自分の内側から湧き出る情熱に気づいていないと突き抜けたプレーは出来ません。

メンタルトレーニングの個人セッションの中で好きなこと、没頭できているときを聞いていくと、音楽が大好きで楽器もやっていたことが分かりました。実は、ゴルフでも大好きなインパクトの音があったのです。「大好きなインパクトの音にこだわってやってみませんか?」という提案をしたところ、最後まで突き抜ける感覚を維持することができるようになったのです。

好きなこととは、心の源泉ともいえます。私は選手達と、自分の源泉を見つけていくというメンタルトレーニングを取り入れています。大好きなことを発見していくのです。それを9つのマスの中に記入していきます。

まずは自分らしさを発見するために、幼少期から社会人までのわくわくしたことや印象に残っていることを洗い出していきます。ポスターを部屋中に張っていたアイドルや俳優、暗くなるまで懸命に練習した部活動、親や祖父母、恩師からもらった言葉などです。

みなさんは思い出せますか?

最初なかなか出てきません。楽しかった多くの思い出を忘れているのです。しかし実は子供のときワクワクしたことは、今につながっています。先ほどのK選手の場合、三輪車で遠くに行くのが大好きな子供でした。それは実は「旅」であったり、「知らない世界へのあこがれ」という源泉だったのです。そしてプロゴルファーになっても、新たなことにチャレンジすることが大好きでした。逆にいうと、同じことを繰り返していると飽きてくるのです。9つのマスには「新たなチャレンジ」そして「世界のコースでプレーする」というキーワードが並びました。

一打一打に自分らしさが込められているほど、失敗したときも自分を見失うことなく乗り越えていけます。しかし選手によっては、「結果を出すためには〇〇しなければならない」と思いこんでしまって、本来の自分を忘れてしまっているのです。

何事もやり抜くためには、源泉を生かすことができるかどうかが鍵なのです。どんなに失敗しても源泉が枯れることはないのです。それこそがあなたの心の軸であり、プレーの軸にしていくものなのです。