スポーツをしていると、さまざまな癖が出ます。ゴルフのスイングなど技術的な癖や、股関節が固いなどフィジカルの癖は分かりやすいですが、「心の癖」はなかなか見つけにくいです。心の癖を知る手がかりは、「言葉の癖」にあります。「言霊」と言われるように、心は言葉に現れるからです。
あるプロゴルファーは、「でも」を頭につけるのが癖でした。こちらが一生懸命話しても、「でも」と言われると、否定されたようでがっくりきます。ただ本人にはそんな気持ちはまったくなく、ただ決められず悩んでいるだけなのですが、「でも」という言葉には、さまざまな気持ちが集約されていました。
決断して結果が出ることへの躊躇、否定されることへの恐れ、自分をわかってくれないという不満、私は悪くないという消極的な主張…。
何よりも、自分自身を信じられない心が「でも」に表れていたのです。メンタルトレーニングでは、「でも」ではなく、「はい」を口癖にするようにしました。いろいろ考えず、まずはやってみる。また嫌なことは嫌とはっきり言うことに挑戦しました。頭で分かっていても、最初はつい「でも」と言ってしまいます。しかし、トレーニングを続ける中で、「でも」と発したときに、実はエネルギーが下がっていることに気づきました。
この「気づく」というステップがメンタルトレーニングでは、もっとも大事になります。何度も「気づく」というプロセスを経る中で、「でも」に込められていた心の傷が癒やされていくのです。その結果、1つ1つのショットに決断力が増し、優柔不断さが消えてきました。
また別のプロの口癖は、「調子が悪い」でした。パターが少しでも入らないと「調子が悪い」、アプローチが寄らないと「調子が悪い」、少しでも芯を外すと「調子が最悪」。このプロは、少しのミスや違和感が許せず、そこから崩れていました。実は、「調子が悪い」という口癖を分析すると、難しく考えすぎている自分に気づいたのです。
実はこのプロは、私生活では面白いことが大好きでした。そこで本人の発案で「面白い」に口癖を変えてみたところ、まったくプレーが変わりました。違和感やミス、ピンチの中から面白さを見つけることで、悪い流れをよい流れに変えることができるようになったのです。自分自身とうまく付き合うためにも、エネルギーが上がる「口癖」を発見し、ゴルフのラウンドだけでなく、日々使っていくことが大切です。
仏教では、3つの「業」があるとされています。心で行う営みを「意業」、体で行う「身業」、どういう言葉遣いをするのかという「口業」です。業は私たちの自我(エゴ)そのものであり、この世で与えられた宿題ともいえます。「口業」すなわち「言葉の癖」は、その人の生き方そのものです。禅の修行では、ありのままの自分を素直に表現できるよう言葉も磨いていきます。「口癖」が変われば、生き方もより磨かれたものになっていくからです。