「力み」は、ゴルファーにとって大きな課題です。なぜ、力みをとろうとしてもなかなか抜けないのか。力みは身体だけではなく、頭から来ているからです。バーディをとりたいと思うだけで、2メートルのパットは力みます。あのバンカーに入れたくないと思うと力みます。残り2ホールを1オーバーであがればベストスコアだと気づき、いつも通りにプレーしようと考え始めた瞬間に力みが始まり、結果的にティーショットを左にひっかけてしまったりします。
では、力みにどう対応すればいいのでしょうか。私たちは首から上の働きと、首から下の働きを持っています。首から上の働きとは、頭を使った思考です。英語でいえば、「Thinking」です。そして、首から下の働きとは、身体を使った感じる心、「Feeling」です。力みを抜こうとするとギクシャクしたり、逆に緩んだりするのは、思考で力みをコントロールするには限界があるからです。大事なことは、力みを抜こうとするのではなく、力みが抜ける状態を作ってやれるか。メンタルトレーニングでは、Feelingを磨いていきます。
今回は、首から下のFeelingを鍛えるトレーニング、「1分間素振り」をご紹介します。簡単にいえば、ゆっくりと時間をかけて素振りをするトレーニングです。このトレーニングの意味をゆっくり振ることだと考えていると、ただ苦しいだけになります。ポイントは身体の状態を感じられたかどうか。
身体を感じるとは、まず始動から。どんな感じで動き始めましたかと質問をすると、多くの人が答えられません。もし、始動の瞬間をはっきり思い出せたら、あなたは身体を感じながら、プレーできています。次に感じてほしいのは、足の裏です。ここでのポイントは、自分の足で立っているというよりも、足を支えてくれている地球を感じることが大事です。背中、丹田と感じる箇所を変えていき、最後に全身を満遍なく感じながら素振りをします。最初は一カ所からで大丈夫です。トレーニングを重ねる中で、少しずつ全身の感覚を感じられるようになっていきます。
このトレーニングをやっていると、だんだんクラブが重くなってくると思います。この状態が余分な力みが抜けた感覚。全身でクラブを支えているので、自然に腕の力は抜けるのです。身体を感じる中で、余分な思考が減ってくればくるほど、身体の動きはシンプルになっていきます。
これは、禅の師匠である藤田一照老師から教わった、体についての行法を応用したものです。例えば、坐禅でも初心者はいきなり「正しいあるべき形」に行こうとします。もちろん、いい坐禅の形はあるのですが、いきなりその形だけをしようとしても、それは思考で力んだ坐禅です。その形にいたるまでの、過程が大事。「無心」を作ろうとして、いきなり「無心」を意識していると、それで頭がいっぱいになった状態になるのと一緒です。大事なことは、自然に無心になるための、順番があるということです。ゴルフでも、いきなりいいスイングの形を作ろうとするのは思考の働きなので、力みが発生するのです。理想のスイングは、いい過程を経た結果なのです。
感じるメンタルトレーニングをやっていると、気を抜くとすぐに意識が別のところにいくことに気づきます。人の心はFeelingではなく、Thinkingになりやすいのです。いかにシンキングファーストからフィーリングファーストに切り替えていくか。トレーニングを行う中で、少しずつですが、どんな時も、フィーリングファースト、つまり自分の身体への意識を保つことが出来るようになっていきます。緊張していても、身体が動く状態とは、フィーリングファーストなのです。