メンタルトレーニングのコラムを連載中の週刊ゴルフダイジェスト、今週のテーマは「立ち坐禅をしよう」です。
皆さんは、ラウンド中の待ち時間をどう過ごしていますか?前のホールでバーディパットが入って、すごく喜んでいるかもしれません。1メートルのパットを外して悔やんでいるかもしれません。多くの場合、過去のプレーを振り返っているか、次のプレーを考えています。
実はこのような待ち時間の過ごし方では、いいパフォーマンスを出し続けていくことは難しいです。なぜなら、振り返りも次のプレーへのプランもすべて「思考」だからです。いろいろなことを考えるのは、実は退屈するのが嫌ということへの裏返しです。スマートフォンをいじるのも、退屈を避けたいという刺激を求める欲求から来ています。実は、こうした刺激はいいプレーをすることを妨げます。
刺激はさらなる刺激を求めます。辛いものが好きな人は、もっと強い刺激がないと物足りなくなります。それは、刺激的な味であっても、素材本来の味ではありません。一方で、伝統的な日本料理では、素材が持つ美味しさを引き出すために、ひとつまみの塩にこだわります。ほんのわずかな塩の量の差が素材の味を活かしも殺すもするのです。ただ、素材を感じるには、鋭敏な味覚や嗅覚が必要になりますが、刺激はそれらを奪ってしまいます。実は、思考も刺激の一つ。辛さが味覚を麻痺させるように、思考は鋭敏な感覚を麻痺させるのです。
ゴルフにおいても思考による刺激は、プレーに悪影響を及ぼします。思考の刺激はテンションであり、一時的にはいい気持ちになりますが、次の瞬間には不安や緊張に変わるからです。ルーティンに入って、いきなり思考によるテンションモードを落ち着いた状態に切り替えようとしても、すぐには戻りません。
ゴルフは待ち時間が多いスポーツ。大事なことはその待ち時間をどう過ごすか。不要なテンションを高めないためには、「今この瞬間」を感じ続けることです。そのために、待ち時間には坐禅を組みましょう。といっても、坐ることはできないので、立った状態での坐禅です。
足の裏で大地をかんじる。風を感じる。小鳥のさえずりに耳を澄ます。山の緑のグラデーション、ゆっくり動く雲など周りの景色を眺める。もちろん呼吸を感じることも大事です。歩いている時も、考えるのではなく、一歩一歩進みながら足の裏を感じましょう。ただ、呼吸を感じても、なかなか思考が止まらない。逆に緊張してくるという場合があります。
そんなときにお勧めなのが、「法界定印=ムードラ」です。坐禅のとき、お腹の前で組んでいる円い手の形を見たことがあると思います。ムードラと呼ばれるあの形は、宇宙の真理を表しているともいわれます。右の手のひらを下に、左の手のひらを上に置いて、親指同士がくっついた状態を作ります。このとき、大事なことは、親指がかすかに触れていることを感じること。くっつきせず、離れてもダメです。薄い紙が一枚親指の間に挟まっているような、つかず離れずというかすかな状態を感じ続けるのです。
ぜひ、待ち時間の質をあげて、プレーの質も上げていきましょう。