メンタルトレーニングのコラムを連載中の週刊ゴルフダイジェスト、今週のテーマは「勝つ局面と這い上がる局面」です。

みなさんは今、「勝つ局面」ですか?それとも「這い上がる局面」ですか。勝つ局面と這い上がる局面ではメンタルトレーニングの方法がまったく違います。

勝つ局面とは、司馬遼太郎さんの小説「坂の上の雲」で描かれた明治時代を迎えた日本のように、ただ前のみを見つめ一心不乱に進んでいる状態です。勝つ局面ではイメージトレーニングは有効に働きます。未来の輝く自分をイメージすることで、自分を信じる力が強化されます。また、勝つ局面では高い目標を設定することでモチベーションが高まります。上に上にと登っていくエネルギーを最大限活用するのです。

一方で這い上がる局面はまったく違うエネルギーです。この局面ではイメージトレーニングではありません。自信を失った状態では、輝く理想のイメージは逆に心の乖離を生み出し、苦しみになります。上に向かっていくよりもまずは現状を受け入れること。ゼロからスタートするために開き直ること。そして、少しずつ安心感を持つこと。高い目標設定は重荷にしかなりません。

まずは、どちらの局面に自分がいるかを理解することが大事です。一つの目安は「頑張る」という言葉に対してどういう感情が湧いてくるか。勝つ局面では「頑張れ」という言葉は励ましであり、素直に受け入れられます。一方で、這い上がる局面での「頑張れ」は重荷であり、これ以上どう頑張れというのかと苦しくなります。

這い上がる局面では、底だと思っていたら底が抜けることがよくありますが、どこかでプライドが残っているとまだ底ではありません。見栄、プライド、過去の栄光、自分への信頼を失ったとき、人は倒れます。でも再び上がるためには倒れきる必要があります。そしてどん底まで行けば、自然に上がりはじめます。ですが、倒れきるというのは、かなりの覚悟が必要です。

なぜか練習するほど下手になっていく。自分より実力がなかった選手がどんどん活躍する。そんな砂を噛むような状況の中で、いかに諦めず耐えられるか。這い上がる局面でのキーワードは「手応え」。いきなり結果は出ません。結果よりも、まずは手応えを感じるプロセスを一つ一つ作れるか。

「グレートモーメンタム」という言葉があります。大きな石の水車をイメージしてください。石の水車は重くてなかなか動かない。全力で回しても、数センチようやく動くかどうか。そして、すぐに止まってしまいます。若く勢いがあるときには、何をやっても上手くいくときがあります。しかし若いときよりは数倍真剣に練習しているのに、やればやるほどゴルフが難しくなる。むしろ、下手になっていると感じます。しかし、諦めず何度も回していると、どこかで水車がスッと動き始める瞬間があります。石の水車が自ら回りはじめると、あとは大きな力をかけなくても、自力で動いてくれるのです。いわゆる「慣性の法則」です。

這い上がる局面では、この大きな石の水車に挑むような感じともいえます。