試合の日の朝、靴を履き替えている姿を見ると、その選手の心の状態がよく分かります。

脱いだ靴を乱雑に置いている選手。きちんと並べている選手。

ある陸上選手は、靴紐を結んでいるとその日の調子が分かると話されていました。

心穏やかに結べる日、手が震える日、結んでいることにも気づいていない日。

では、靴紐をきちんと結べたから、いい結果が必ず出るかというとそうではありません。

メンタルトレーニングをやっていると、「いい結果が出るなら何でも試すけど、結果に結びつかないようなことは無駄だからやりたくない。」と考えている選手も多いのです。

靴をどう履くかというのは、無駄な部類に入るでしょう。しかし、面白いのですが、長く第一線で活躍し続けている選手ほど、こうした一つ一つの行動を大事にしています。

一方で若い選手達は心を整えるというと、プレー中のことだと思いがちです。しかし、プレー中だけどんなに集中しようとしても、それは不可能です。

昔、禅の師匠から「朝、ホテルを出るときに、洗面台をタオルで拭いてみたら。」と言われたことがあります。

洗面台を拭くことなどいともたやすいと思いました。恐らく10秒もかからないでしょう。

実際にやってみると、これがなかなか難しい。まずはギリギリになると、準備に追われて拭く余裕がありません。また、その後の仕事のことを考えていると、忘れてしまうこともあります。

たった10秒ですが、されど10秒。

洗面台を拭けるときは、心が落ち着いています。その余裕が、その後の仕事にも繋がっていきます。心を整えるというのは、簡単なようで奥が深い。

今この瞬間というのは、そのときだけ合わせようとしても合いません。それこそ結果だけを求めた虚しい努力です。

普段から、一つ一つの行為を大切にしているからこそ、自然に合ってくるのです。

どのスポーツでも、本当に素晴らしい記録が出るときには、そのプレーは美しい。

美しいプレーには、やはりすべてが整っているのだと思います。

週刊ゴルフダイジェストに連載中のメンタルトレーニングのコラム「禅の境地へ」第152回のテーマは、「靴を履き替えるところから、その日のプレーは始まっている」です。

興味のある方は、ぜひご覧ください。