スポーツ選手のメンタルトレーニングしていると、「この状況では、どうすればいいですか」と質問されることがよくあります。

この問いに答えるかどうかは、なかなか難しいです。

何も答えないと選手は不満に感じます。困っているのに放っておかれたと感じるのです。不信感になってもトレーニングは上手くいきません。

私の中にこうしたらいいのではないかというアイディアがあるときは伝えることもあります。ただ、その与えた答えはその場しのぎでしかない。ここで答えを出すことが本当に必要なことではない場合が多いのです。しかし、それは後になって分かる話です。

どう対応するのか。私自身が、試される場面です。

私自身、以前は禅の老師に「この問題についてどう思われるか」「今の状況でどうしたらよいか」という意見を求めていました。ただ、そこでアドバイスをいただいたことはほとんどありません。無言でやり過ごされるか、「まあもう少し悩んでみたら」と笑顔で返されます。

そのときは、悩みを受け止めてくれなかったように感じて、なぜなのだろうと考えたりしていました。あるいは、自分のことはどうでもよいのではないかとすごく寂しい気持ちになったりもしました。

しかし、答えをもらわないことで、自分の中での問いのバリエーションが増えていきました。
一番の問いは、「何が起こっているか」です。

人は困った時に「どうすればよいか」と問いがちです。そうではなく、まず「自分の中に何が起こっているのか」と問えるようになりました。

それは思考だけではありません。
息の出入り、身体の感覚などさまざまです。

こうした今起こっていることに気持ちを向けていると、次第に自分自身がクリアに見えてきます。

ちなみに、「どうすればよいか」と尋ねているときは、自分自身が手っ取り早い答えを求めているという事実があるだけなのです。

これがよい悪いではなく、「手っ取り早いものを求めている」自分にまず気づくことが大事です。それが次の問いへと続きます。あるゴルファーは「今できることは何か?」という問いが生まれて来たそうです。そうやって、いかに自分への問いを深めていくか。そのプロセスの中で、さまざまな気づきが生まれてきます。

メンタルトレーニングで選手にとって必要なのは、「答え」ではなく「気づき」なのです。

私自身今は、答えを聞かれたときに答えを出すことはほとんどなくなりました。

週刊ゴルフダイジェストに連載中のメンタルトレーニングのコラム「禅の境地へ」第159回のテーマは「自問自答力をつけましょう。心の中の自問自答は、答えよりも問いが大事」です。

行き詰まったときには、ぜひ自分に問いかけてみてください。

今起こっていることは何か?