マインドフルネスとは

先日の週刊ゴルフダイジェスト誌に、マインドフルネスが特集されました。テーマは「気づく力でムリなく集中」です。

今回は特集の内容の一部をお伝えしたいと思います。ゴルフ以外のスポーツやビジネスにも通じる内容になっていますので、ぜひ参考にしてみてください。

マインドフルネスとは「今ここにいる自分を感じる」ということです。

ちなみに今の自分には、思考(マインド)、心(ハート)、身体(ボディ)という3つの要素があり、重なり合っています。

自分の中では、今この瞬間に、いろいろな思考や感情が起こっています。また、身体では息をしていたり、目で見ていたり、耳で音を聞いていたり、皮膚で温度を感じています。それらにただただ“気づく”というのがマインドフルネスの肝になります。

しかし「ただ気づく」というのが、なかなか難しいです。なぜなら、人は思考で解釈を加えたり、過去や未来に行ってしまったりして、今ここにいないことが多いからです。

また、自分の状態をマイナスに感じると、それを排除したくなります。気づくことには、同時に受け入れることがセットになります。

いかに気づいて、そのまま受け入れるか。

そうしないと、自分で自分と戦ってしまうのです。自分の中に敵を作らないことが大切です。自分の中に敵がいると、敵を倒すために多大な労力が必要になり、常に恐れを感じ、心身は疲れ切っていきます。

思考のフィルターを外す

欧米では、マインドフルネスがスポーツやビジネスなどの現場で実践され、ストレス軽減、集中力や創造性の向上などの効果が科学的に実証されています。もともとは仏教の「念」からきている考え方で、スティーブ・ジョブズ、稲盛和夫をはじめ数多くの経営者や、イチロー選手などトップアスリートも実践しています。

先日アメリカでのゴルフの試合で、松山英樹選手が自分のミスに対して“欲まみれだった”と発言していましたが、松山選手ですらそのことに後で気づきました。スポーツ選手を指導していると、「あそこで欲をかかなければ」と言いながら、また同じことを繰り返すということがよくあります。

大事なのは、「今自分には欲があるんだ」ということをその場で気づけるかどうかです。

人間は生きていると、9割方思考しています。ビジネスやスポーツの場合も同様です。ゴルフでいえば、「バーディがとりたい」「ミスしてはいけない」「あの人に勝ちたい」と思考した状態でプレーしています。

これを私は「思考フィルターがかかった目」と呼んでいます。思考というフィルターがかかっていると、視野は狭くなります。

人は思考に囚われるので、思考で思考に気づこうとしても無理です。より思考が複雑化したり、欲まみれになると、身体が固まって、スムースに動かなくなります。

だからこそ、呼吸や五感を使って、身体で気づくことが必要になります。今この瞬間に、思考以外で起こっていることに意識を向けてあげることで、ハッと思考の呪縛がとけます。これが思考フィルターが外れた状態です。

思考で思考を何とかしようとするのではなく、身体に気づかせる方にいくのが、禅の修行といえます。

気づくことで、視野が広がって、ムリなく自然に集中できるようになります。また、すべてを楽しめるような流れを生み出します。

身体に気づくことで自律神経が整う

また、自分の身体に気づくことは自律神経のバランスを整えることにもつながります。

例えば、眠れない時に寝ようとすると、焦って余計に眠れなくなったりします。これは、交感神経が優位になり、副交感神経が働かなくなるからです。考えすぎるほど、自律神経のバランスが崩れ、極度に緊張したり不安が強くなったり、結果的に普段通りにできなくなります。

スポーツでいえば、フォームばかり考えると、身体が置き去りになります。いかに自律神経のバランスを取るか。要するに、思考と心と身体のバランスをいかにとってあげるかということです。

ゴルフで言えば、ショットの前や歩いている時に、呼吸や五感を意識する行動を入れるのもオススメです。たとえば、ミスを引きずっていてリセットしたいときは呼吸に意識を向ける、視野が狭くなっていたり窮屈に感じる時は、周りの景色に目を向けて緑のグラデーションを見る。思考の目で見るとただの木ですが、実は緑にはグラデーションがあることに気づく。また、何かにすごくムキになっているときは、風を感じるのもいい。集中出来ていない時は耳を使い、鳥のさえずりなど何か一つの音にフォーカスすると集中力が戻ってきます。

思考に縛られている時こそ、身体の機能に意識を向けることで、思考、心、

身体のバランスを取り戻しましょう。

悪癖に対処するためのチェックメソッド

また思考との付き合い方にも「今この瞬間の思考への気づき」が有効です。

先日、男子ゴルフツアーで2シーズンぶりの優勝を果たした石川遼選手が、試合中にピンマイクで自分自身を実況しながらプレーしたことが話題になりました。

これもマインドフルネスといえます。今自分の中に起こっている思考をその場に言葉にして出すというのは、今の自分に気づいているということです。石川選手は思考が多いタイプに見えますから、思考の実況中継はプレーにプラスに働いたのかもしれません。思考を現在進行形で言葉に出してあげると、身体の動きを邪魔しなくなります。これも思考を敵にしない付き合い方と言えます。

また、気づくためのチェックメソッドも有効です。

誰しも悪癖を持っています。それは気づくと変化することが科学的に立証されています。例えば、爪を噛む癖があるとすると、『爪を噛まない』と言うと逆に治りにくいのですが、爪を噛んだ時にチェックして正の字などを付けていくだけで減っていきます。

例えば、あなたがミスを引きずる癖があったとしましょう。こうしたとき、ミスを引きずってはいけないと思うほど、自分を追い込んでしまい、逆にミスを誘発してしまいます。引きずってはいけないというのは、自己批判です。批判は自分の中での戦いを引き起こすのです。

そうではなく、ミスを引きずっているなと気づけるようになることです。そして、手帳にチェックするだけでいいのです。気づく→チェックを繰り返す中で、悪癖は減っていきますし、気づく力も養えます。

仏教の「念」と「智慧」の働きとは

マインドフルネスは仏教の「念」からきている考え方です。

「念」というのは、気づくということです。実は、気づくことそのものがものすごい力を持っています。禅の根底には、人間が持っている潜在能力を引き出すという側面があると思います。

ビジネスもスポーツも決断の連続です。いい決断をしようとすると、静けさが必要です。思考で雑音が多く複雑になった状態では、いい決断はできません。今この瞬間を感じられると、静かになっていきます。

気づく力で、視野が広がる、ムリなく集中できる、そして静かで時間を超越した感覚が起こってきます。

一瞬をすごく長く感じたり、あるいは1日がすごく短く感じたりと、人の感覚は状態によって、時の長さも変えます。こうした感覚を磨くことで、心身がリセットされて、仏教的にいう「智慧」の働きが起こってきます。フッといいアイディアがやってきたり、根拠のない自信が宿っていたりします。

ぜひ日常の中に、マインドフルネスで静けさを作っていきましょう。