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ポジティブになれないあなたへ
先日発売された週刊ゴルフダイジェスト第48号に「絶対ポジティブになれないあなたへ 不思議系のメソッド」というテーマで赤野コーチのメンタルトレーニングが特集されています。
最近活躍している若手プロを見ていると、表面上はホンワカしていて無理した感じがない選手が多い気がします。天然系とも言えるかもしれませんが、それよりも“不思議系”というイメージが浮かびました。
「ホンワカ」というひと昔前では考えられなかった不思議系の強さについて、分析してみたいと思います。
よく「ポジティブな気持ちでプレーしよう」なんて言いますが、そう簡単なことではありません。アスリートを指導していても、自信がないことに劣等感を持っていたり、無理にポジティブになろうとして、逆に力んでしまったりと、ポジティブ思考の罠があるんです。
といっても、ネガティブなままでいいかというとそうではありません。ただ、今まではネガティブではダメだから、少しでもポジティブになろうという道しかありませんでした。
ネガティブになりがちな方が、ポジティブに持っていくのはなかなか難しいです。そうではななく、ネガティブ思考の方は、「不思議系」にシフトすることをお勧めします。
不安でいい
まず、ネガティブな人がもってしまいがちな「不安」についてです。不安は消えないものです。だから、不安でいい。不安を活用するんです。
不安があるならば、多くを望まなければいいです。普通でいいと思えれば、無駄な力も抜けます。大きな野望がない状態だからこそ、自分が今できることに集中できます。
たとえば、優勝はプロの誰もが目指しています。しかし、選手によって、優勝を強く望むと力が湧いてくる選手と、心身の緊張が強くなりすぎて力が発揮できない選手がいます。
普段のプレーができなくなる選手というのは、優勝を目指さない方がいいです。それよりも、不安だから準備を怠らない、また、不安だから周りをしっかりと見る、話をきちんと聞くという行動にシフトすることで、結果的に結果がついてくるようになります。
自信もなくていい
また、自信もなくていいんです。自信をつけるというのは、本当に難しいし、失敗すると自信が消えてしまうこともあります。ネガティブ系の人は、自信に頼ると、逆に自信に縛られてしまうんです。
不思議系というのは、自分を「強い」とも「上手い」とも思いません。だから、力まないし、無駄な執着がなくなります。
不思議系のプロたちは、切り替えが早く、感情の起伏なくプレーしています。これはいい意味での「諦め」を持ち合わせています。これは、ゴルフの大敵である「考えすぎ」をなくすことにつながります。感情の波が少なくなるので、淡々とプレーできます。1ラウンド、4日間の試合の力配分も上手く出来るでしょう。
また、不思議系のプロたちの発言を見ると、「自分のできることをしたい」「海外には行かないです」「準備ができてから挑戦したい」という一見積極性に欠けるようなものもあります。ただ、これはネガティブなものではありません。
周りからは情熱が薄いように見えるかもしれませんが、実は「静かな強さ」です。禅では「静中の動」という言葉もあるのですが、不思議系の皆さんには、表に見えるパワーは少ないかもしれません。しかし、ホンワリしているように見えるけれど、どこかしら内に秘めたる“芯”を感じます。
欲張らないから、自分の原点に戻っていけるし、他者に惑わされません。だから、少々のことには動じないのです。自分の原点というのは、「自分のホーム」とも言えます。ホームに戻れると人は落ち着きます。戦っている時、ずっとアウェイだと疲れますよね。いかに心落ち着ける場所を持っているかは、不思議系のメソッドの肝です。
誤解がないように申し上げると、不思議系は決してポジティブ思考ではありません。かといって、ネガティブ思考でもない。どちらにも囚われていない。
ネガティブな人というのは、内向的な人が多い。自分を外に出すのが苦手なんです。ただ、ちゃんと自分の世界は持っています。一方で不思議系の人も、言葉は少ないですし、自分を表現するのが得意とは言えません。ただ、自分の世界を無理に上手く表現しようとしていません。内側を大事にするというのは、ネガティブも不思議系もいっしょ。だから、ネガティブな人と不思議系は親和性があると考えています。
今までは、ポジティブとネガティブが対極でしたが、そこに不思議系という新しいコンセプトが生まれてきたというのが、面白いところです。ぜひ、ネガティブな方は不思議系を目指してみてください。
不思議系へスイッチ
では、「不思議系」になるにはどうしたらよいか。
まずネガティブ思考だと感じている人は、自分をネガティブだと決めつけないことです。もちろん、ポジティブになろうとする必要もありません。自分を固めようとしないことが大事です。不思議系は雲のように流される存在のようでもあります。流れとはバランスです。固めるとバランスは崩れます。ゴルフって一打ごとに違うバランスで打っていますよね。
「体験ファースト」です。不思議系の順番は、「考えてから打つ」ではなく、「打ってみてから考える」です。何事もやってみないと分からないことをよしとするのです。
「なりたい」ではなく「ありたい」を大事にする
その上で、「なりたい」ではなく「ありたい」を大事にしましょう。「優勝したい」
「バーディを狙う」「今日は90を切りたい」ではなく、「静かでありたい」「穏やかでありたい」「普通でありたい」の心持ちで、ひとつひとつのプレーをしてみるのです。
なので、ネガティブ思考の人は、「絶対いける!!」「オレはできる!!」というようなポジティブシンキングはお勧めしません。
無理に元気にしようとする思考は、逆にエネルギーを浪費している可能性が大きいです。これは「ないもの」を無理やり作ろうとしている状態。大事なことは、すでに「ある」ものを見つけて生かすことです。
不思議系のキーワードは「気持ちよく」と「安心感」です。たとえば、受験で「ない」ものが苦手科目だとすれば、「ある」ものは好きな科目です。皆さんも経験があると思いますが、好きな科目は苦手な科目に比べて、無理なく楽に取り組めます。
ミスしても死ぬわけじゃない
ちなみに、ミスした後の気持ちの切り替え方について、不思議系のプロたちはどうしているでしょうか。小祝さくらプロと竹田麗央プロはどちらも「ミスしても死ぬわけじゃないですから」と答えていました。
この自分を追い込まない、自分を痛めつけない感じが不思議系の心の持ち方です。一打ごとにゼロに戻るには、ミスしても仕方がないと思えるかどうかが肝心です。そして、小祝選手も竹田選手も「考えていない」という発言をします。これは、本人が気づいていないかもしれませんが、自分を捨てきる「無我の心」になっているということです。
また、不思議系の人には、常に心に“スペース”があります。だから、プレーだけに必死にならなくてすみます。ピンチの時も、あまり表情が変わりませんよね。いかにこのスペースを持てるか。ネガティブな人はこのスペースがなくなるので、不安を通り越して絶望になってしまいます。このスペースがクリエティビティ(創造性)を生み出します。
仕事や生活の場面でも、同じようなことが言えるのではないでしょうか。詰め込みすぎてはいいアイディアは生まれません。だから、あえてリラックスすることや休暇を取ること、趣味や旅行など別のことをする。
ゴルフのことばかり考えないためにも、プレーとプレーの間には、クラブを持たないのもいいと思います。待っている間にずっと素振りを繰り返しているゴルファーを見かけますが、そこでいいショットが生まれる可能性は低いです。適度に体をほぐすくらいで、むしろ周りの自然に目を向けたりするのもいい切り替えになります。ぜひ次回のラウンド中に、どちらが心にスペースが生まれるかチェックしてみてください。
思考していない状態がスペースです。放っておいても頭の中には、言葉は湧いてくるものです。いかにゴルフ以外のことが湧いてくるようにするか。すると、直感の声が聞こえてくるんです。直感とつながると体は自然に動くようになります。これが結果的にいいプレーを生みます。
不思議系の方は自分が不思議系だなんてまったく思っていないでしょう。スペースがある人は、周りから見ると何を考えているか分かりません。それは、頑張ってゴルフのことを考えていないからです。重要な場面でも「終わったらラーメンでも食べたいなあ」というイメージが湧いているかもしれません。
いかに日常から、ピンチの時やムキになる場面で、頑張って考えることを止めてみることもいいトレーニングになります。
自然に自分の中に湧いてくるものに任せてみましょう。それに委ねるようにしてみると、自然にスペースが生まれます。
人生の中にゴルフがある
また、「人生の中にゴルフがある」というのは、不思議系の考え方だと思います。ゴルフだけが人生じゃない。他にも好きなことがある。食べること、寝ること、買い物すること、おしゃべりすること…自分の好きに囲まれて生きることで、一つのことに執着しなくなる。
最近まで、競技に人生をかけるのがプロという考えがよしとされてきました。競技だけが人生じゃないというのは、今でも中途半端だとか頑張りが足りないと思う方もおられるでしょう。
もちろん、そういう徹底したあり方で、結果を出せる方もいます。それを否定はしません。しかし、人生の中にゴルフがあるという考えは、とても自然なありかたです。これは現代の流れにあったあり方ではないでしょうか。
特にネガティブな人は“好き”が少ない傾向があります。要は視野が狭いんです。なんでもいいので、自分の好きを広げてほしいです。 あなたも今日から「不思議系」へ。余計な力みが抜けた自然体のプレーや生活へと一歩踏み出してみましょう。