全米オープン決勝で、大坂なおみ選手がセリーナ・ウィリアムズを破り優勝しました。日本のテニス選手としては4大大会初制覇となりました。本当におめでとうございます。
以前は大坂選手が、試合の大事な場面でミスショットを連発したり、ラケットを投げてイライラしたり、泣いてしまうシーンをよく見かけました。それゆえ、プレーの波が激しく、メンタルに課題があって実力が発揮できていないという内容の報道がされていました。
それが今年からサーシャ・バジン氏がコーチに就任し、大坂選手のプレーは大きく変わりました。バジンコーチはとにかく自信をつけることを大事にしていました。試合中にコーチングができる試合では、上手くいかなくてふてくされている大坂選手の元に駆け寄り「大丈夫。君ならできる」といい続けていました。
優勝後のインタビューでも、「一時テニスが楽しくなくなったときがあった。それが、バジンコーチや家族、周りの支えのおかげで、再び楽しくなった」と話していました。
ここで大事なことは、20歳という若さと才能溢れる大坂選手でも自信を失っていた時期があったということです。人はなぜ自信を失うのでしょうか。当たり前のようで、すごく大事なポイントです。
そして、もう一つインタビューの中で印象的だったのは、「今回は身体が思うように動いた。そのことで常にポジティブでいられた」と話していたことです。
どんなスポーツでも一流の選手ほど、自分のベストな動きについての、イメージを持っています。そして、イメージ通りに動いたときには、すごく気持ちよくプレーできています。一方で一番辛いのは、イメージはあるのに、その通り身体が動いてくれないときです。私も多くのアスリート達とメンタルトレーニングする中で、試合に負けることよりも、身体がイメージ通りに動かないことのほうが、後に引きずるダメージになります。逆にいえば、試合には負けても、イメージ通りのプレーが出来ていれば、次にいい流れでつながっていきます。
しかし、このイメージ通りのプレーというのは本当に難しいのです。まずは身体のコンディションがあります。フィジカル的に万全でないとなかなかイメージ通りの動きは難しいです。そして実は身体がイメージ通りに動くために、心の持ち方がすごく影響しているのです。
大坂選手は以前のインタビューで「もともと私はネガティブ思考な傾向があるのですが、サーシャがコーチになってくれてから、楽観的になったような気がします。いつも楽しくいられるようにサポートしてくれています」と話していました。バジンコーチによると、「ナオミは、自分自身に強い期待を持つ完璧主義者なので、つい自分と戦ってしまう」ので、いかに力を抜くかを、何度も2人で話し合ってきたそうです。
楽観的でいること。楽しくいること。自分らしくいること。力を抜いて自然体でいること。
これらは大坂選手だけではなく、多くのスポーツ選手に言えることです。自信は確かに結果によっても、左右されます。ただこれまで多くの選手をみてきて、結果よりも自分のプレーが出来るかどうかの方が、実際は大きく影響しています。
インタビューを見ていても分かりますが、彼女は繊細かつ本当に素直な心の持ち主なのだと思います。しかし、それがそのままプレーに出てしまうと、相手のペースに持って行かれてしまいます。バジンコーチは、彼女の持ち味を活かしながら、相手を翻弄するための、技術も教えていったようです。解説者も述べていたのですが、それが試合でのメリハリに繋がったのだと思います。大坂選手が自然体で楽しくプレーしながら、いかに相手のペースを崩して自分のペースに持っていくかというコーチングは、今の彼女にもっともあった指導方法なのだと思います。バジンコーチによる技術と心のサポートがあって、一段階レベルが上がったプレーに目覚めることが出来たのでしょう。
決勝での戦いは、セリーナ選手の警告騒ぎがあったり、それに対する観客の反応など大坂選手にとっては心が揺れ動く場面が何度もあったと思います。ただ、最終的には彼女の素直で天真爛漫な人柄は、セリーナ寄りだったメディアや観客の心を魅了したようです。名実ともに大坂時代が幕を開けたといえるのではないでしょうか。これからの活躍が楽しみですね。