F1レーサーを目指しているカートレーサーの冨田自然(とみたあるが)選手が
先日岡山県の中山サーキットで行われた全日本カート選手権の第2戦で優勝を果たしました。
タイムトライアルでは、6位と出遅れましたが、
最後まであきらめず驚異の5人抜きを果たしました。
もちろん優勝という結果も大事ですが、
それ以上に本人にとっては暗いトンネルを抜ける光明が見えた試合になったと思います。
冨田選手は、小学校時代から数々の大会で優勝を重ねるなど
天才少年と呼ばれ、将来を嘱望されていました。
しかし、中学生になって 大人と同じ大会で戦うようになり、
ジュニアとは違う高いレベルでの戦いになかなか結果が出ない日々が続きました。
人一倍努力家で勝利への思いが強いだけに、苦しい日々だったと思います。
私と出会った当時は、結果が出ない自分への焦りで、
自然選手本来の走りが分からなくなっている状態に感じました。
ジュニア時代に天才と呼ばれても、大人への階段を登るとき、
多くのジュニアがなかなか結果を出せない時期を経験します。
体も心も大きく変化する中で理想の現実という自分の中のギャップを埋められず、
残念ながら才能を開花させられず消えていく選手も多くいます。
私のもとを訪れる選手には、むしろこういう挫折が大事なことを伝えます。
ポイントは、結果がでない時期をどう乗り越えるかです。
結果がでない自分を責めて、目先の結果を出すことに焦って
小手先で修正しようとすると泥沼に入っていきます。
どんどんプレーが小さくなっていきます。
そうではなく、結果が出ないからこそ、
自分本来の走りとは何か?
自分の持ち味とは何か?
何のために走るのか?
逆境のときこそ、そういうことを見つめ直すいい機会なのです。
自然選手にとっても、この挫折をどう乗り越えていくかが
これからF1レーサーを目指す中で、 大きなターニングポイントになると私は思いました。
ちなみに自然選手の場合は、調子が良い時はぶっちぎりの走りをしますが、
調子が悪くなると無理をしすぎたり、集中力がなくなったりと、
自分がコントロールできなくなるという課題がありました。
だから自滅する試合も多かったのです。
そういう時は、 マシンのせいにしたり、コースのせいにしたりして
自分を無理やり納得させていたように見えました。
持っていき場のない悔しさは心を傷つけます。
トレーニングを始めた当初は、自分の悪いところしか見えていませんでした。
理想の走りができない自分を責めていました。
しかし、責めれば責めるほど、本番では迷いが生じます。
レーシングというコンマ一秒の世界の戦いでは、この迷いが一番の大敵なのです。
自分を疑うのではなく、どれだけ自分を信じ切る心を作っていけるかが、
アクセルとブレーキを踏み込む一瞬の直感を生み出します。
だから、毎回練習や本番の後では、 反省点はあえて1つに絞って、
自分のよいところや持ち味をたくさん出してもらいました。
面白いことに、全く自分をほめる言葉が浮かばないのです。
だから言葉にも、まったくエネルギーがこもっていませんでした。
それでも、とりあえず書き続けていく中で、
少しずつ自分を認められる言葉が増えていきました。
失敗しても責めるのではなく、次に生かすこと、
また良かった点もあったことを冷静に客観的に理解できるようになっていきました。
そして、試合でも少しずつ自分の走りを 楽しめるようになってきました。
楽しめるようになってくると 自然に集中力も判断力も増してきます。
先日優勝した試合では、 予選は決して納得いく走りではなかったものの
本選ではどんなときも集中力を切らさず 粘りきることができました。
そのキーワードは「冷静さ」でした。
冷静さを持ち続けることで、一瞬のチャンスをものにできたのです。
これまでひたすら「ぶっちぎる」ことを目指してきた
過去の走りとは違う感覚だと思います。
しかし、「冷静さ」は自然選手を輝かせる新たなキーワードになっていくはずです。
未来のF1レーサーを目指す自然選手の世界への挑戦は
今後も引き続きお伝えしていく予定です。
今後の活躍をどうぞ応援してください。