これまで2回にわたり「受け身」の心を作ることが
身体と心の本来の力を引き出し、
ベストパフォーマンスを出す秘訣だとお伝えしてきました。

「受け身」の心とは、一言でいうと
「身体」と「呼吸」と「心」を師匠にするということです。
禅では、これを調身・調息・調心といいます。

この考え方は、西洋の心理学をもとにした
一般的に行われているメンタルトレーニングとは真逆のアプローチです。
以前は私も西洋式のメンタルトレーニングだけでやってきました。

一言で言うと、西洋式のメンタルトレーニングは、
いかに心と身体を脳でコントロールするか。
そのメソッドを科学として開発してきました。
これは、もともと二元論の考え方から来ているのです。
モノ(肉体や物質)とココロ(魂や霊魂、精神)という、
それだけで独立して存在することができる2つの実体がある
とする考え方です。

しかし、経験を重ねる中で、二元論に基づいて
コントロールするという方法が
本当に人間のベストパフォーマンスを引き出せるのか、
疑問が湧いてきました。

普段、私たちの脳が身体や心をコントロールしています。
いわゆるシンキングマインドです。
これは自然なことなので、悪いことではありません。

ただ、長年スポーツ選手やビジネスマンとトレーニングを重ねていく中で、
コントロールしようとすればするほど苦しくなり、
スランプに陥りやすい傾向があることが分かってきました。

西洋式のメンタルトレーニングでは、そのようにして陥ったスランプから
回復するにも、脳の思考でコントロールしていきます。

ところが、確かに一時的には結果がよくなるかもしれませんが、
コントロールだけでは、モチベーションを維持し、
長い間、高いパフォーマンスを上げ続けるのは難しいのです。

人間はもともと意識しなくても呼吸しています。
身体や心の多くの動き、もっというと細胞レベルの動きは
自然に行われているのです。
意識して動かすということをトレーニングするよりも、
もっと自然な働きを磨いてやることが実は大事なのです。

自然な働きを磨くには、「能動的な脳の働き」と「受け身の心と身体」という
2つの働きを融合させることが必要です。

禅は「すべては一つ」という考え方に基づいています。
これは二元論とはまったく違うアプローチです。

本来人が持つ可能性を引き出すことができるのは、
この「一つ」という考えを進化させることです。

自分と人も、もともと「一つ」なのですから、
喧嘩する相手はいません。
いかに一つのハーモニーを作るかなのです。

このハーモニーこそが、心や身体の能力を最大限に引き出します。
ハーモニーを作るために大事なのは、支配する心や力ではなく、
「受け身」であるがままの心と身体の働きを受け入れる、あるいは感じる力です。

私たちは、脳でコントロールするシンキングマインドについては
学校や様々な場所で学んでいますが、
「受け身」の心の使い方については、ほとんど知らない
と言ってもいいのです。

これが、努力して頑張る人ほど、心と身体のバランスを崩す理由です。

では、「受け身」の心をどう作っていくのか。
次回は実践的な方法をお伝えします。

次回に続く…