皆さんは、「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉をご存知でしょうか?
なかなか馴染みのない言葉ですし、私も最近知りました。

精神科医で作家でもある帚木蓬生さんの著書
『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』によりますと、

「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」

と定義されています。

この言葉は、イギリス生まれの詩人、ジョン・キースが兄弟にあてた手紙の中で、
シェイクスピアの能力を表現したものだそうです。

シェイクスピアには、このネガティブ・ケイパビリティが備わっていたからこそ、

オセロで嫉妬の、マクベスで野心の、リア王で忘恩の、
ハムレットで自己疑惑の深い人間の情念を描き出せたのだ

と分析されています。

先日、禅の師匠に「自分もすごく勉強になった」と
この本を勧められたのですが、
まさに私が今必要としていることに出会えました。

私自身、日々取り組んでいること、
進んでいる道は間違いないかなと思えているのですが、
目に見える結果や変化が起きないと、自信がなくなって、
つい焦ってしまいます。

著者の帚木さんも、精神科医として自分の未熟さ、力のなさに
打ちのめされていた時、この言葉に出会ったそうです。

少し本文から引用させていただきます。

「私たちの能力と言えば、才能や才覚、物事の処理能力、
問題解決能力が小さいころから要請されます。
ネガティブ・ケイパビリティとは、その裏返しの能力。
論理を離れた、どのようにも決められない、宙ぶらりんの状態を
回避せず、耐え抜く能力です。」

(中略)

「私たちの人生や社会は、どうにも変えられない、
とりつくすべもない事柄に満ちています。
むしろそのほうが、分かりやすかったり処理しやすい事象よりも
多いのではないでしょうか。」

帚木さんもこの言葉を知ったことで、精神科医としても、
作家としても、踏ん張る力がついたそうです。

私自身、特に会社員だったときは、人に勝つために、自分に勝つために、
「早く、速く」何かを終わらせるという、タスク思考で生きてきました。

だから、人よりも速く、効率よくやることは出来たかもしれません。
しかし、タスクに偏りすぎたために、深さや豊かさはなかったように思います。

コーチになってからも、クライアントの答えが出ない状態に耐える
ということはしていませんでした。
早く的確な問題解決をしていかないと、コーチとしての価値がない
と思っていたからです。

しかし、人には解決できない問題がある。
どうにも変えられないことがある。

禅との出会いのおかげで、最近は、仕事でも人生でも
少しずつタスクを手放せるようになってきました。
ただ寄り添うことが大事なのだということが分かってきました。

ただ、頭で分かってはいても、つい「早くやらなければ」という
タスク思考に引き戻されてしまいます。

早く結果を出すことが求められる今の時代だからこそ、
分からないまま、答えを出せないまま、
結果が出ない時に耐える力が必要なのだと思います。

遠回りでも、ゆっくりでもいい。

マニュアルでは分からない、タスク思考では見えない
深く、豊かな真実に出会う。

なかなか難しいですね(笑)

ご興味のある方は、ぜひ手に取ってみてください。
『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』
(朝日新聞出版 帚木蓬生著)